”異例の侍ジャパン” 天才打者の遺伝子

無名の天才打者が全国に名が知れ渡るとき


広島東洋カープに、かつての広島の大打者 前田智徳を彷彿させる天才打者がいる。
背番号60番、田村俊介である。

2023年シーズンに1軍初出場。骨折により10試合と少ない試合数ではあるが364.という高い打率を残した。
この成績から大きな期待感をファンに持たせ、カープファンからかつての天才打者の名をもらい”前田智徳2世”と呼ばれた。
田村の名前はカープファンの中では知られた存在になってはいたが、
彼の名前を全国区にする出来事が2024年に起きた。

『侍ジャパン 田村俊介』の誕生である。
2024年のシーズン前に行われた侍ジャパンシリーズのメンバーに選ばれたのである。
侍ジャパン井端弘和監督が視察をした中でバッティングに惚れ込み、選出をしたという。
公式戦出場10試合という異例の選出であり、当時関東でもスポーツ新聞の1面を飾るまでの報道にもなり、
広島の田村の名前は知れ渡り、カープファンにとっても特別な存在となった。

西川龍馬2世と呼ばれ入団

入団前、広島の松本スカウトは、田村のバッティングコントロールを評価しており、
「西川龍馬2世」とコメントを残している。
2024年、そんな西川龍馬がFA宣言により広島の地を離れ、田村が入れ替わるようにスタメンに名を連ねた。
それもまた運命なのかもしれない。
異例の侍ジャパンに選ばれた田村の2024年シーズンの始まりは決して良いものではなかった。
開幕から調子は上向かずなかなかヒットが出ないことが続く。
自慢のバットコントロールもマルチ安打が出ず、成績としても現れなかった。
そしてゴールデンウィーク明けまで1軍帯同をしたものの、ケガ明けの末包の代わりに2軍降格となった。
なかなかスタメンでの出場も減った中で、2軍での出場機会を積むことを優先させた。

天才は夏に目覚める

この時、誰もが2軍でまた調子を上げてすぐに1軍で田村の姿を見られるだろうと期待をした。
しかし、5月から降格をしてからというもののファームでも成績が大きく向上はせず、
ファームでも大きく天才ぶりを見せることもなく、2軍での日々が長引いてしまった。
他の育成から支配下に上がった佐藤啓介や二俣翔一などが結果を残す中、なかなか1軍に上がるほどの成績が残せない日々が続いた。

ここで終わらないのが田村である。
夏になると急に天才が目を覚ました。8月のファームの打撃成績は4割を超えた。
毎日のように安打が生まれ、打撃成績が急に上向き、もちろん、1軍から声がかかる。
ファンも待ちわびた1軍での田村を見れると期待に胸を膨らませた。

2度目の降格からチームを救う

しかし、8月に昇格をしてから1軍では代打中心の出場となった。
1打席にかける勝負ではことごとく失敗。1軍での打率は1割台に落ち込んだ。
結果的に8月中旬に1軍に上がった田村は9月には2軍へ再度戻る形になってしまった。
2軍の出場では大きな当たりなども出て変わらず好調を続ける田村だが、
多くのプロ野球選手が経験するように1軍の壁にぶち当たっている。
8月に掴みかけたバッティングを1軍での経験を糧に、さらに練習を続ける姿勢が見られた。

田村の2024年シーズンはここで終わったかと思われたが、事情が変わった。
ご存知の通り、広島1軍が『歴史的失速』と言われる事態に陥った。
8月まで守った貯金をすべて9月に掃き出してしまったのだ。
田中広輔、上本崇司とベテラン陣の代打陣もうまく機能せず、ファンからも苛立ちが見られた。
これまでネガティブな感情を見せない新井監督の表情からも「なんとかしなければ」という焦りが見られた。

チームは首位から4位へ。まさかのクライマックスシリーズ出場争いとなってしまった。
歴史的失速と言われたまま、ここでCSを逃すわけにはいかない。
9月後半、大事なところで1軍に上がるのが田村である。

イチローと比べられ、西川2世、前田2世と呼ばれながら、
2度の降格を経験した泥まみれの天才打者は、チームの窮地を救えるのだろうか。

梅井 健太郎

1990年生、広島県出身。高校野球や独立リーグ、プロ野球を中心に現場で足を運び、若手のプロスペクト選手を中心に取材。野球のレプリカユニフォームの収集家でもあり、自宅には300着以上のユニフォームを所有。野球チームの演出・イベントにも精通しており、過去には球団の開幕戦演出にも企画として携わった経験もある。

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