BCリーグ最多勝投手がマジック1のマウンドに立つ
2024年8月31日、大型台風10号が迫る中、地元最終戦を迎えるチームがいた。前日まで本拠地としている平塚市も冠水の情報が流れ試合開催が危ぶまれたが、当日、試合を開催する方向で進んだ。昼には雨の影響も最小限で、グランド状態も悪くはない様子だった。その裏では「ホーム優勝」を目指したチームスタッフが多くいたことだろう。開催に向けた念入りな準備への敬意も払いたい。
神奈川フューチャードリームスの先発には安里海投手が立った。150㎞を超える速球を持ち、強気にストライクでカウントを稼げる奪三振能力が高いピッチャーである。そしてこの日までにシーズン10勝を挙げており、最多勝を確実なものともしており安定をしている投手である。
この日、チームのマジックは1と点灯しており、勝てば優勝が懸かる試合である。2位との差は大きくもなく、負ければチームのマジックは消滅するという負けられない場面に起用された。対戦相手は埼玉武蔵ヒートベアーズ。こちらも勝つことで4位でのプレーオフ出場の可能性もある試合でどちらも負けられないチーム同士の戦いであった。
試合は初回に動いた。1回表埼玉武蔵HBの攻撃である。鳥居大のセンターへのヒットで出塁した後、安里海の投げる球を捉えたのは4番に座った町田隼乙である。打率3割2分を超える巧打者であり、NPBへのドラフト指名も期待されている。負けられない戦いにおいて初回の2失点は大きい。
しかし、神奈川フューチャードリームスの1回裏の攻撃では、初回から攻めたてた。齋藤健成がフルカウントから粘って打球がセンターへ抜けると2番山口隼輝が1球送りバントで進んだ後、打率3割5分を超える柿崎颯馬がチャンスを広げるとタイムリー、満塁押し出し四球とあっという間の逆転劇であった。
この試合は、大きく点の取り合いになるゲームになる展開も予想される初回の攻撃であったが、2回は三者凡退に抑えると、3回は一時エラーでの出塁から二死満塁の機会をつくったが、得意の奪三振でピンチを乗り切った。6回にも町田を先頭打者でヒットでの出塁を許し、スコアリングポジションにランナーを置きながらもサードゴロでの併殺で凌いだ。そして7回まで投げ終えると、最多勝投手は7回2失点で勝ち投手の権利を持ちマウンドを降りた。そして後続も無失点で凌ぎ、神奈川FDが2度目のBCリーグ優勝を果たした。
『野球エリート』の選んだ新しい挑戦
安里海は沖縄出身。名門・東海大相模高校へ進学し、1年生から出場機会も得ていた。高校3年の夏の神奈川大会では横浜高校との対戦で、万波中正(現・日本ハム)や増田珠(現・ヤクルト)、福永奨(現・オリックス)の打線に4失点を喫してしまい、甲子園出場を逃してしまった。大学は東海大学へ進むと、4年生には最優秀投手賞を受賞するなど着実に力をつけてきた。社会人への進路を決めており、日立製作所へ所属し、試合にも1年目から出場を果たした。都市対抗や選手権への出場機会はなかった。東海大相模~東海大~日立製作所と一見すると経歴は『野球エリート』であるが、2024年に新たなチャレンジとして独立リーグの道を選んだ。待遇面も社会人野球チームの方が安定をしているともいえる中、異例の選択である。これまで何度もプロ注目投手として挙げられていた安里の人生を掛けたシーズンが始まった。
そしてー2024年のシーズン
神奈川フューチャードリームスの優勝へ導く活躍を見せた。そして、個人タイトルとしても、最多勝に加え、最多奪三振も獲得。BCリーグの防御率も4位。社会人の力を堂々と発揮したシーズンであった。そして、安里が独立リーグを選ぶ理由としても掲げた『試合数』という点においても、2024年のBCリーグ投手で最多投球回である。球場・設備など恵まれた環境ではないものの試合数も重ね、野球に専念し着実に力をつけたシーズンである。ゆったりとしたフォームから投げられる快速と空振りをとることが出来る変化球。プロのファームとの交流戦などでも対戦を重ね、試合経験値も多く積んだであろう。ファームとはいえNPB選手を相手に上々の出来を繰り返したこともプロの目には届いているだろう。
プレッシャーのかかる大一番の安里のピッチングは、BCリーグのプレーオフでも見られることだろう。そして、その先には、プロ注目の左腕はNPBドラフトでの指名が期待される。この独立リーグへ勝負を掛けた男の進む先が気になるところである。この秋、注目をすべき存在であろう。